【嵐よういち・海外裏ロード】イスタンブールの『靴磨き詐欺』
海外裏ロード

先日、地元を歩いていたら俺の前にいた年配の女性がハンドタオルを落とした。周りには俺以外にいないわけで、もちろんタオルを拾って女性のところに行き「これ、落ちましたよ」と言うと、笑顔で「すいません、ありがとうございます」と礼を言ってきた。俺は感謝されたいわけでもなく、良いことをしたという満足感なんかどうでもよく、反射的に体が動き、ごく常識的な行いをしただけである。もちろん海外でもこのようなことはあり、俺の方も見ず知らずの人から博物館で「あなたのカバン、チャックが開いているから閉じた方がいいわよ。ここはスリが多いから」注意を促されたこともある。この場合も親切心から言ってくれたのだ。
俺は8月のクソ暑い日にトルコのイスタンブールの新市街を歩いていた。新市街は旧市街と違い、オフィスビルや大使館、外資系ホテルなどが立ち並び、お洒落なレストランなども多く、この付近に宿を取る人も多い。ちなみに旧市街から新市街まではメトロで簡単に行き来することが出来る。この時期のイスタンブールの観光地はどこに行っても混雑していてウンザリしていたが、軍事博物館は穴場的な場所で最高だった。
二階建ての博物館に入ると入口で入場料の5トルコ・リラ{以下TLで表記。約150円}を払おうとするが、小額紙幣がなく、20TL札をだすと「おつりが今ないので、後で取りにきてください」と、紙にペンで書いただけの交換券をもらう。ずいぶんと雑であるが、この博物館の中は大きくて訪問客が少ないからゆっくり見学出来るし、展示物は多くて主にトルコ民族による軍事関連の展示物が目立ち、遊牧民族のものや、オスマン帝国の歩みや現代の軍事資料などもある。武器や戦争に興味がある人にはお勧めだ。俺は帰り際にチケット売り場に行き、お釣りをもらった。10TL札一枚と5TL分の硬貨をもらって財布にしまう。そこから歩いて繁華街にでも行こうと思った。だが、歩いて1分で40℃近い暑さに後悔する。帽子を深く被り、水分を補給する。もちろんこのクソ暑さなので歩いている人はいない。
日曜なので閉まっている店も目立ち、広い通りに人の姿はほとんど見えないが外資系ホテルの前には観光客の姿がある。しばらく歩くと前方に靴磨きセットを両手で抱えている男が俺の視界に入った。そして男は靴の表面の汚れを落とすブラシを落としたが、全くそれに気が付いていないようだ。皆さんならどうするか? おそらく対面恐怖症か余程ひねくれてダメな奴以外、それを拾って教えてあげるだろう。俺もブラシを拾い、大声で呼ぶが気が付かない。そして肩を叩いて教えてあげる。男は口髭を生やし、目が優しそうな50代で、笑顔で喜んでいる。俺が行こうとするとこう言う。
「ミスター、あなたはジェントルマンで優しい人だ。僕の商売道具が落ちたのを教えてくれた」
「いえ、当然のことをしただけですよ」
「ミスター、お礼にあなたの靴を磨かせてくれないかね?」
俺の靴はスニーカーである。皮でもないし磨かれても困る。
「いえ、結構です」と断る。
「磨かせてください」
商売でもしようとしているのだろうか。
「どうせ金を取るんでしょ?」と言うと
「いや、あなたから金は取らないよ。無料でいいよ、礼をしたい。さあ、ここに靴を置いてくれ」
これはどう判断していいのか。ただの善意でやってくれているのか、はたまたこの男が良からぬことを考えているのか。試すのもいいかもしれない。先程の博物館のお釣り10TL{約300円}札も財布にあるので、もし善意でやってくれたらそれをチップであげて、騙してきた場合もそれを渡せばいい。わずか300円でこの男の魂胆がわかるわけである。
俺が靴を台に置くとブラシで磨き始め、水で濡らし始めた。男は饒舌になる。

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「どこから来たの?」
「日本の東京だよ」
「僕は首都のアンカラ出身でイスタンブールには出稼ぎで来ているんだよ。君、子供はいるのか?」
「独身だよ」
「僕は子供が二人いる。家族が腹をすかしているから大変なんだよ」
男はかなりの早口で話しかけてくる。悪いことを企んでいる人間はやたら饒舌になり自分のペースにしようとする、この男はそれと同じ行動を取っているではないか。更に男の目を見ると、優しい目の奥に言いようのない狡さを感じた。これはヤバい奴かもしれない。両方の靴を磨いた後、今度はクリームを塗るらしく「右足を台に置いて」と言う。塗るのを見ながら俺はこんな考えを抱くようになってきた。
『もしかしたら大変な誤解をしていてこの男は単なる男気でやってくれているんじゃないか』
人を疑って変なことばかり考えている自分を少し責め始める。
「さあ、終了だ」と男が言う。
「ありがとう」
俺は笑顔で返すと、男は怖い表情を俺に投げかけながら言う。
「金をよこせ」
「は?あのあなた、金はいならいと言ったよね・・・」
「そんなわけないだろ。腹が減っている。子供たちも飢えている、金をくれ」
非常に残念な結果である。本当はいい奴だと信じたかったし、俺はガッカリした。最初から渡すつもりだった10TLを財布から出した。男は俺の財布の中身を見ていた。そして言う。
「10じゃない、財布の中にある100をよこせ」
この野郎、こっちが下手に出ているからって調子に乗っているな、許せねえ。
「今、何て言った?!」
「10じゃ少ない。100をよこせ」
「お前の仕事は10以下なんだよ。お前にやるわけないだろう。ふざけんな」
「早く100をくれ」
この時、道を通る人は皆無であった。もし、男の仲間がたくさん集まってきたらどうするか?そうなったら大声を出して逃げるだけである。だが幸い、仲間はいないようだ。
「10しか渡さない。俺は行く」
俺が立ち去ると、後ろから何やら言ってきたが無視である。もしこれ以上しつこくしてきたらどうするか。対策はいくつかある。

1・「お前、うるさいからポリスを呼ぼう。そこで話そう」と言う。
2・近くにホテルがあるので助けを求める。
3・暴力はいけないが、徹底的に口喧嘩をして通行人がいたら味方につけ、この男をいたぶる。

そんなことを瞬時に思うが、男はそれ以上なにも言ってこなかった。俺は歩き続けるうちに、非常に腹が立ち、ムカムカしてきた。俺が一番許せないのは人の親切心、恩を仇で返すじゃないけど、人の優しさに付け込んで金を騙し取ることである。
あれ?もしかして、あのようなシチュエーションになって男が突発的に愚行を働いたのではなく、初めから仕組まれていたのではないか。つまり、あの場所辺りでカモの観光客を物色し、常習的に道具を落とす行為をやっているのかもしれない。俺は真相を確かめる為にUターンをして道の反対側から男がいた近辺を探した。もし、同じような被害者がいたら報復攻撃、つまり、観光客にそいつの前で忠告してやろうと思ったのだ。だが見つけることは出来なかった。
俺はいつも、これから訪れる街について流行りの詐欺や犯罪を予習しておくのだが、トルコに限ってはなにも下調べをしていなかった。部屋に戻ってネットで調べると、どうやら同様の「靴磨き詐欺」は日本人だけでなく他の国の人もやられているようで、中には靴磨きの仲間が加勢してきて囲まれ、脅かされて金を取られるケースもあるので、トルコを訪れる人は十分に注意して欲しい。
ちなみに俺がまた靴磨き詐欺に遭遇したらどうするかと言うと・・・また拾ってしまうかもしれない。

海外ブラックマップ

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嵐 よういち
嵐 よういち
旅行作家、旅行ジャーナリストをやっています。
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