第21回 サンパウロ今昔物語(1)【嵐よういち・海外裏ロード】
深夜の東洋人街を俺(右)とシユウさんが歩く

常宿は「ペンション荒木」

サンパウロはブラジルを代表する大都市で、2017年時点で約1211万人の人口を擁する。日系人も約100万人住み、リベルダージという地区にはかつて日本人街もあった。そこには日本料理店やカラオケ、スナック、日系スーパー、床屋、盆栽屋、書店などなんでもあり、日本の地方都市のような街を形成していた。

上空からの眺め。サンパウロはメガタウンだ!

上空からの眺め。サンパウロはメガタウンだ!

日本の反対側にある異国で、昔の日本らしさを残す街は大好きだったが、この街も徐々に中国人や韓国人の勢力に押され、また日系人がほかの場所に移るなどして、日系の店や人口が減少。現在は中国や韓国系の店も数多くある“東洋人街”になっている。

東洋人街の橋からの景色。交通量が多い

東洋人街の橋からの景色。交通量が多い

夜の東洋人街。提灯が見える

夜の東洋人街。提灯が見える

この東洋人街にはかつて、伝説の宿「ペンション荒木」が存在した。過去に出版した書籍にもその様子を書いている。長年にわたって旅行者や女好きに愛されていたこの宿のことを最も宣伝し、文章に残してきたのは俺だと自負している。

だが、好きな人がいる一方で、3割くらいの旅行者は、荒木が肌に合わなくて嫌っていたようだ。他人の旅行記やブログでも「変態が多い」(そもそも女遊びをするだけで変態なのか?)「夜になると男どもが夜遊びにいく。聞くと『クラブ活動』と答える」「皆、お気に入りの女を『彼女』と呼んでいて痛い」なんていう意見もたくさん目にした。

確かにしょうもない連中が多かったのも事実だが、遊んでいる連中の中には貧乏旅行者が羨むような金持ちも多かった。俺の兄貴分のシユウさんはトレーダーとして稼ぎ、一年中、海外を放浪しながら現地人をナンパしていたし、Nちゃんはバブル期に数億円の資産を築き、時間を作ってはタイとブラジルばかり行って金を使いまくる。A君は不動産投資で稼ぎ悠々自適、今井さんは米国の金利の良い銀行から毎月2000米ドル(約22万円)の収入があるのでサンパウロに住んでずっと遊んでいた。この時、彼らは30代後半だった。

深夜の東洋人街を俺(右)とシユウさんが歩く

深夜の東洋人街を俺(右)とシユウさんが歩く

その他の遊んでいた人は元々普通の旅行者だったが、サンパウロの夜遊びで沈没し、そこから抜け出すことができずに、世界一周の旅はそこで終了。期間労働者もいたし、会社を辞めて貯金と退職金で金に余裕のある人や、卒業旅行で来ている女好きの連中もいた。若い学生らの共通点は皆、高学歴で、就職先も有名企業。親も金持ちで、協調性も抜群だった。

ペンション荒木との出会いは1997年にさかのぼる。ペルーの首都リマの日本人宿で、目上の旅の達人に「ブラジルはとにかく最高」と言われ、行かないと後悔すると思って決心した。情報がまったくなかったが、その達人から「荒木に行けばどうにかなる」と聞いた。それからサンパウロに行くたびに、この宿に世話になった。南米の他国を放浪している時に、日本人旅行者と仲良くなると「サンパウロの荒木に集合だ」が合言葉のようになっていた。

ドロップアウトして何が悪い?

中には外こもりのように宿からほとんど出ない人もいるし、社会不適合者の非常にキモいやつもいたが、普通の旅行者や女の子、学生らと交流があり楽しい場所だった。だが、駐在員や在住者の間では、この宿はずっと馬鹿にされ続けていた。

理由は泥棒が頻繁に入るという噂があったことと、ドロップアウトした変で汚い格好の日本人が多く宿泊していたこと。宿も汚く不潔で、ドラッグを利用している人ばかりという噂も立っているのを耳にしてきた。

確かに強盗は何度か入り、社会をドロップアウトした人もいるし、汚い身なりの人もいて、宿も汚いし、中にはドラッグ愛好者がいるのも事実だが、東洋人街で宿を経営していれば、強盗の被害にはそりゃ遭うだろう。ブラジルなのだ。警備員が大勢いるところでも、ショットガンを持った強盗団が襲いかかってくる街である。

ドロップアウト? いいじゃねえか。おまえらは社会の勝ち組かもしれないが、逆にそうじゃない人たちも大勢いるんだよ。その人たちが現実逃避のために旅してもいいじゃないか。

汚い身なり? 世界一周や長期旅行をしていれば仕方ないだろ。宿が汚いのは、悪口を言っている人には関係ないことだし、ドラッグは館内では禁止で、堂々とやっているやつなんて皆無だったぞ。

それにしても、駐在員の選民意識はなんなのだ? その奥さんも同じように馬鹿にしてくる。勉強ができ、一流企業に就職し、バックパッカーなどやったことがなく、そもそもそのような人たちに、荒木や荒木の客を理解しろというのが無理なのは分かっているいるが、頭にくることも多々あった。そんな連中と夜の街や日本食レストランでよくかちあっていたものだ。

駐在員の娘と知り合うも母が登場

悔しい思い出はいつまでも忘れないものである。あれは97年、リベルダージで19歳の日本人駐在員の娘と知り合った。その娘が俺のことを気に入ったようで、宿にも遊びに来ていた。そしてレストランに二人で食事に行くことになったが、向こうは金を持っていないので俺が出してあげた。

彼女は「節約しながら旅をしているのに悪いわ、お金は絶対に返す」という。たった500円だし、こっちはそんなのどうでも良かったが、数日後、女はやって来た。そして公衆電話から母親に電話をかけてこう言う。

「借りているお金のことで、お母さんがあなたと話をしたがっているから話してもらえます?」

すごく迷惑な話である。別に金はどうでもいいし、娘には手を出していないし、手を出す気もなかった。さらにこっちは旅の単なる1ページのつもりで女と過ごしているだけなのに、なんでその母親と話さないといけないのだ。それでも仕方なく受話器を取った。簡単なあいさつをすると、母親が切り出してきた。

「あの、食事をごちそうになったそうですが、お金は娘に渡さないで、直接会って返します」

「あの~、別に高いものじゃないし、ごちそうするんでいいですよ」

ここで話は終わるものと思っていた。

「何も下心がなくてごちそうするなんて考えられないと思うんですよ。娘はまだ19歳ですよ」

「は、何言っているんですか? だからそんな気はないですし、金はいいです」

俺は早く電話を切りたかったが、母親は話を止めない。

「あの~、大変失礼なんですが、もう娘とは会わないでもらえますかね。迷惑だし、心配なんですよ」

俺はカチンときた。

「別にこっちが誘ったわけでなく、娘さんの意志で来ているんですよ。ちょっとそんな言い方失礼じゃないですか? 」

母親はどんどん調子にのってくる。

「泊まっているところも荒木でしょ。あそこは悪い噂しか聞かないし、強盗も最近入ったらしいじゃないの」

「泊まっているところは関係ないと思いますけど」

「ろくな人が泊まってないらしいですよ。あなたは娘よりも年上なんだから、娘がだまされてしまうのよ。だからもう会わないでください」

俺は受話器を思いっきり叩きつけて電話を切った。

荒木は人生修行の場?

こんなこともあった。宿の近くに日本人駐在員が集まる日本食レストランがあり、俺はバックパッカーの旅行者と2人で、そこのカウンター席に座って食事していた。カウンターには50歳過ぎくらいの駐在員2人がいたのだが、こんな話を始めた。

「日本に住んでいる学生の息子が1人でサンパウロに遊びに来るらしいんだよ」

「そうなんですか。自宅に泊めるんですか?」

「どうしようかな。荒木に泊めて人生の修行をさせてもいいかな」

なんだか知らないが、彼らには荒木が人生修行の場になると思っているようだ。

「荒木は評判悪いですよ。汚くてねずみも出るらしいし」

「そうだよな、あそこはひどいらしいからな」

彼ら2人はそう話しながら、連れの旅行者をチラチラと見ていた。自分のことを言われていると思ったのか、彼は機嫌が悪くなって黙りこんでしまった。

どうやら、旅人と駐在員の感覚は根本的に違っているようだ……。

次回以降、数回にわたってサンパウロの話を書いていく意向です。

サンパウロのビジネス街。微妙に治安が悪い

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この記事の作者

嵐 よういち
嵐 よういち
旅行作家、旅行ジャーナリストをやっています。
代表作は、海外ブラックロード・シリーズ。
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