第9回 沖縄米兵が闊歩する街、金武町とコザを攻める【アジアンナイトクルージング】
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那覇市中心部のクラブ「イェロー」で、沖縄産の蒸留酒「泡盛」を大量に飲んだ。沖縄社会で暗躍する友人、かんじゅん氏の実家にタクシーで帰り、ふとんに潜り込んだのが明け方の4時過ぎ。のどが渇いたりして1~2度目覚めたが、ようやく起き上がれたのは正午だった。

完全な二日酔いで、全身から泡盛臭をまき散らしている実感があった。ジャスミンティーの一種で、沖縄県民には欠かさせない「さんぴん茶」のペットボトルを飲み干すと、気分が少し楽になった。

かんじゅん氏が、重篤(じゅうとく)な二日酔いに直面している私の様子を見にきた。

「何か食べたい物はありますか?」

「沖縄そばを食べてみたいです……」

「ツイートしたことがないとっておきの店があるので、そこに行きましょう」

「お、お願いします……」

彼が案内してくれたのは、浦添市にある「一本松」という店だった。学生時代、同級生だった女の子のお母さんが開いた店だそうで、当初はそんなに期待していなかったものの、試しに食べに行ってみると思いのほかおいしく、以降は常連になったという。

沖縄そばは「そば」と銘打ってはいるものの、実際にはそば粉ではなく小麦粉でつくった麺を使用する。スープは和風だしを効かせたものが一般的で、胃に優しい。具材としては、豚のソーキ(骨付き肉)や三枚肉、小ねぎなどが入る。紅生姜をお好みで投入するが、繊細な味付けを台なしにしてしまうので少量にとどめた方が良い。大量の紅生姜をぶちこんでかきこむ牛丼などとは、料理の性質が異なるのである。

私は一本松で、全ての具材が入りご飯も付いたボリューム満点のスタミナそば800円を注文。麺とスープ、具材が三位一体となったスタミナそばは抜群にうまく、二日酔いも吹き飛んだ。

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「一本松」のスタミナそば。ご飯も付いて800円

ハーフ少年が公園でラップ練習

かんじゅん氏には「沖縄のアンダーグラウンドを取材したい」と頼んでいたが、具体的にどこに行くかは把握していなかった。夕方になると、彼からLINEメッセージが届いた。

「これから車で金武町(きんちょう)というところに行きましょう」

私はすぐにピンときた。

「米軍がらみですか?」

「はい、米軍海兵隊の基地があります。海兵隊には荒くれ者が多く、僕の親は『金武町には行くな』といまだに言います」

「ぜひ行きましょう」

国頭郡(くにがみぐん)金武町は、那覇市から沖縄自動車道を使って1時間超の距離に位置する。金武湾に面する同郡最南端の自治体で、国勢調査結果によると、人口は2015年時点で約1万1000人。米海兵隊の基地「キャンプハンセン」は県内最大規模の実弾射撃演習場を保有し、金武町域の約6割を占める。

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「キャンプハンセン」の入口。ものものしい雰囲気を放出している

町の中心部を歩いてみると、米兵向けのレストランやバー、それにタトゥーショップや美容室などが建ち並び、白人や黒人の米兵らがわが物顔で闊歩している。暗い公園では、黒人と日本人のハーフとみられる少年らがラップの練習に励んでいて、米国の田舎町に迷い込んだかのような錯覚に陥る。ホームレスとみられる人もいて、治安はけっして良いとは言えない。

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金武町の繁華街をわが者顔で闊歩する米兵ら

金武町には、タコスを提供するレストランが多く、タコスとライスを組み合わせた「タコライス」発祥の地としても知られる。われわれは、ある意味本場のタコス(5ピース650円)で軽く腹ごしらえした後、「ゾーン」というプール(ビリヤード)バーに入った。

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金武町にある「ゲートワン」という店のタコス650円。間違いない

ゾーンのバーカウンターでは、20年前はきれいだったであろう小太りのケバい日本人おばさんと白人おやじがちちくりあっている。米兵向けの保養地として開発されたタイ東部のビーチリゾート地パタヤなどでよく見られる光景ではあるが、2人の親密度を勘案すると、単なるカップルではなく夫婦の可能性が高い。

カウンターの内側では、若いころの女優、黒木瞳に似た女性スタッフが働いている。かんじゅん氏はすかさずナンパを繰り出すものの、LINEを交換できず撃沈。私も彼女に質問をぶつけてみた。

「このバーのオーナーはアメリカ人ですか?」

「はい、あそこにいる白人男性です」

「もしも、この町から米兵がいなくなったらどうなるでしょうか?」

「この店の客の9割はアメリカ人なので、困ってしまいますね……」

地元住民は、被弾・流弾事故を起こしたこともあるキャンプハンセンを不安視しているものの、経済的には米軍や米兵に依存しているのも揺るぎない事実であり、ジレンマを抱えているようだ。

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「ゾーン」の店内。ドリンクを注文すればビリヤードし放題

気絶した白人女を抱き抱える黒人男

金武町での取材を終えた後、車で沖縄市に向かった。かつてはコザ市(日本唯一のカタカナ表記の市名)だったが、1974年に美里村と合併し沖縄市になった経緯がある。

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沖縄市中心部の米兵向け歓楽街。殺伐としている

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米兵らが集うシーシャバー。店内にはナンパ待ちの女もいた

市中心部には、米兵向けの歓楽街があり、飲食店やストリップバー、シーシャ(水たばこ)バー、ナイトクラブなどが軒を連ねる。かんじゅん氏からはこんな依頼を受けた。

「コザの歓楽街はいつなくなるか分からないので、なるべく写真を撮って記録に残してもらえませんか。撮影中に何かトラブルに巻き込まれた場合は、僕が全力で守りますので」

要するに、リスクはあるものの、なんとか撮影してほしい。何か起こった時は、琉球空手の実力者でボクシング経験もある彼が盾になってくれるという主旨で、私は快く引き受けた。

屈強な米兵らは威圧感を漂わせているものの、あくまでも規律正しい軍人であり、一般市民に危害を加えることは基本的にはない。私は「治安の悪いケニア首都ナイロビの歓楽街などを取材した経験を踏まえると、余裕だな」などと考えながら、現地で写真撮影を続けていると、ナイトクラブから突如、気絶した白人女性を抱き抱えた黒人男性が外に飛び出してきた。

一瞬、「事件か!?」と緊張が走ったものの、クラブで酔いつぶれた女を抱えた男がタクシーを探しに出てきただけで、事件の類ではなかったのだが、深夜になると、何が起こってもおかしくない雰囲気を持ち合わせていることも確かで、油断は禁物と悟った。

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酔いつぶれた白人女を抱え、タクシーを待つ黒人男。単なる酒酔いなら問題ないが……

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深夜のコザ。黒人や白人があふれかえり、日本とは思えない光景が広がる

沖縄市のスポーツバーでは、かんじゅん氏の知人女性2人と飲んだ。2人とも沖縄で生まれ育ち、働く女性で、のんびりとした性格や話し口調が一緒に飲んでいてなんとも心地良い。米軍や米兵について聞いてみると、「別になんとも思わないです」と口をそろえる。コザの歓楽街でも憶することなく、平然と歩いているのが印象に残った。

在沖米軍はかねて政治的論点になっているが、一般市民にとっては、沖縄に当たり前にあるものとして、自然体で捉えているというのが実情のようだ。

沖縄市内の置屋街「コザ吉原社交街」にも足を運んだ。客なのか、店の関係者なのかは判別できないが、刺青を隠すことなく徘徊する日本人男性らもおり、はっきり言って治安は良くない。普通の観光客は、今の吉原には近付かない方が無難であろう。(沖縄編つづく、新羽七助)

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コザ吉原歓楽街はアウトローな雰囲気が漂っている

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