英国からシンガへ【新羽七助のゴーゴーバージャーナリストへの軌跡 第2回】
英国で悶々とした生活を送っていると、学校が変わって疎遠になりつつあるたかさんからの電話が鳴った。
「七助、まだFKKとか行ってんの?」
「いやー、もう飽きました。最近はあんまり遊んでないです」
「こないだバンコクに初めて行ってきたんだけど、ゴーゴーバーがとにかくすごかったから、今度一緒に行かない? 七助なら絶対にハマるよ」
「タイですか……タイ人留学生は確かにフレンドリーですが、ゴーゴーバーって何ですか?」
「女のコがビキニで踊ってて、誰でも気に入ったコを連れ出せるんだ」
「誰でもって言っても、みな色黒で不細工ですよね……」
「いやいや、けっこうかわいいコもいるよ。七助の好きな茶髪巻き髪のギャルみたいなのもいるし。ナナプラザっていうゴーゴーバー街があるんだけど、その界隈を歩いてる女とは大体ヤレると考えて間違いない」
この現代社会において、首都中心部を歩いている大体の女とすぐセックスできる国などあるわけないではないか……。
たかさんは相変わらずめちゃくちゃなことを言うなと呆れ果てたが、実際に自分の目で確かめなければ反論することはできない。風俗・夜遊び業界でも、実際に現場を見て体験した者の発言が何よりも優先されるのである。
タイのイメージと言えば、蒸し暑い、不衛生、細長いタイ米、売春、HIV(エイズウイルス)……ろくなものではなかったが、たかさんの説得を受け、初訪問することを決めた。
ただ、単なる留学生のため、収入はほぼないので、英国からタイに行くには親から別途資金をもぎ取らなければならない。怪しまれるといけないので、親にはタイのことは隠し、シンガポールに就職に向けた調査に行くと説明。
実際にはシンガ1泊、バンコク7泊という旅行計画を立てた。日本に戻るくらいなら、東南アジアで働いた方が楽しいのではないかという微かな期待があったことも事実である。
赤線地帯ゲイラン
学校がまた休みに入ると、われわれはロンドン・ヒースロー空港からオーストラリアのカンタス航空を利用し、シンガポール・チャンギ国際空港へと飛び立った。
機内はシドニーに向かうオーストラリア人や東南アジア買春旅行に行く英国人らで満席。私の横は運悪く巨漢英国人で、窮屈なロングフライトを強いられた。
英国紳士などと表現されることもあるが、同国は厳格な階級社会で、最下層の労働者階級には箸にも棒にもかからぬ輩も多い。東南アジアに遊びに行くような英国人は十中八九不良。
実際に機内で酔っ払って騒いだり、キャビンアテンダントにちょっかいを出したりしている連中もいて、私とたかさんは予想通りの状況にため息をつくしかなかった。
シンガポールには小学生のころ、家族旅行で来たことがある。当時の宿泊先は中心部の高層ホテルだったが、今回は赤線地帯ゲイランの安宿……。これが現実である。
部屋で荷ほどきを済ませると、さっそく吉野家に向かった。
英国の現地料理はまずいが、日本料理はさらにまずい。吉野家なんてもちろんない。シンガポールで久しぶりに食べた本格牛丼の味は今でも忘れることができない。
ゲイランの夕刻――部屋の窓から外を眺めると、ロロンと呼ばれる小路に早くもアジア系立ちんぼがズラリと並んでいる。いや、高級クラブで働けるような美人もおり、立ちんぼなどという安っぽい表現は適さないかもしれない。私はいても立ってもいられず、外に飛び出した。
ロロンを徘徊し、ピンときた色白美人をホテルに連れ帰った。
中国人ということだけはなんとか分かったが、彼女は英語をほぼ話せず、私は中国語をまったく話すことができない。漢字の筆談でなんとかコミュニケーションは取れるものの、はっきり言って楽しくない。サービスもそれなり。
最終的には「俺はシンガポールまで来て何をやっているのだろうか……」という虚しさしか残らなかった。
東南アジアの中では、シンガポールは確かにダントツで発展しているが、日本や欧州から来た場合、目新しさはほとんど感じられない。この国に住んでみたい、働いてみたいという意欲もまったく湧いてこなかった。
タイは地獄か……
シンガポールから格安航空会社(LCC)ジェットスター・アジア航空を利用し、タイの空の玄関口であるドンムアン国際空港に着陸。当時はスワンナプームはまだなく、ドンムアンしかなかった。
薄暗くボロい到着ロビーを抜けて外に出ると、タイ特有の強烈な熱気がムワッと押し寄せてくる。しかもなんだか臭い。
空港の両替所で英ポンドをタイバーツに両替した際には、1000バーツを意図的に1枚抜かれ、危うく損するところだった。ずる賢いやつらめ!
バンコク中心部へと向かうタクシーの窓からは、荷台に建築作業員を大量に押し込んだピックアップトラックが爆走しているのが見える。東南アジアに対する免疫がまったくない私には、その光景は地獄のようだった。
車中で「とんでもない国に来てしまったな……」とたかさんを呪い、ホテルに着くのをただひたすら待つしかなかった。(続く)
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- 2017/12/23
- タイ風俗