ディスコで会った素人と準即【新羽七助のゴーゴーバージャーナリストへの軌跡 第14回】
バンコク東部プラカノン

トンローのディスコで、パッポンのゴーゴーバー「キングスキャッスル1」で働くセックスフレンドのクン、日本から来たヒロさんの計3人で飲んでいると、近くの“中流階級・堅気女子グループ”の一人から熱視線を送られていることに気づき、思い切ってその輪に飛び込んでいった。

「サ、サ、サワディークラップ(こんにちは)……」

「あなた、日本人よね。見た目ですぐ分かったわ」

「う、うん。君はタイ人?」

「あはは、当たり前でしょ。スクンビット・ソイ22のヘアサロンで働いてるの」

「ヘアサロンで働いているってことは美容師なんだね。すごいな~」

美容師ということは、いわゆる素人である。バンコクでコテコテの売春婦としか交わったことがない私は、“トーシロ”という響きに憧れていた。そのトーシロはディスコマジックにも後押しされ、3割増しくらいでナーラック(かわいい)に見えた。

黒髪ストレートで、唇はアンジェリーナ・ジョリーのように厚みがあり、銀色に輝くピンヒールがセクシーさを際立たせていた。一緒に飲んでいる3人も職場の同僚という。

彼女は、自分らのウイスキーボトルを私のグラスに注いでくれた。こちらも酔っ払っているので、遠慮などない。氷とコーラを勝手にもらってかき混ぜ、トーシロを含めた4人と乾杯。酔っ払った私は彼女の腰に手を回し、一緒に踊り、爆音のダンスミュージックが鳴り響く中、英語で口説きにかかった。彼女は英語が得意ではなかったが、コミュニケーションが取れるギリギリのレベルだった。

「今夜、俺のアパートに来ない?」

「行きたいけど、友だちと一緒に来てるからちょっと無理かな……」

「うん、確かにそうだね……」

「じゃあ来週末に会いましょう」

「楽しみにしてるよ」

彼女と携帯番号を交換し、自分のテーブルに戻った。クンとヒロさんはわれわれの動向を注視していたので、もはや説明する必要はない。客観的に見ると、私はかなり自分勝手な行動をしているが、ヒロさんは怒るどころかむしろ楽しそうだった。

その後はダラダラと飲むこともなく、早めに切り上げ、高級ウイスキーボトルのカードをクンに進呈。まさに“神対応”である。私はヒロさんに謝意を示し、バンコクでの再会を約束し、帰路についた。

プラカノンのアパートへ

週が明けると、トーシロから「元気?」「今、何しているの?」「会いたい」などのSMS(ショート・メッセージ・サービス)が定期的に届き、週末に会えることは確実な情勢になってきた。

1週間の長い長い仕事が終わり、土曜日の昼。バンコク中心部プロンポンの複合商業施設「エンポリアム」で待ち合わせた。エンポリアム内のレストランで昼食でも取ろうかと考えていたが、トーシロは「エンポリは高いので、他の店に行こう」という。彼女が選んだのは、エンポリ斜め向かいのスクンビット・ソイ33/1にある「らあめん亭」だった。らあめん亭もけっこう高いのだが……。

私はオムライス、彼女はみそラーメンをそれぞれ食べ、おごってあげると大変喜ばれた。重要なのは昼飯の後である。ショッピングでも映画でも付き合う覚悟だったが、彼女は「私のアパートに来なよ」という。大きなチャンスが巡ってきていることを確信した。

プロンポンでタクシーに乗り込み、東の方角に走り、BTS(高架鉄道)の駅付近で下車。後方を確認しないでドアを開けると、バイクが突っ込んできて衝突し、交通事故を引き起こしてしまった。バイク運転手に怪我はないもようだが、ブチ切れている。とは言え、私はタイ語ができなかったので、ダンマリを決め込んでいると、トーシロが仲裁に入ってくれて大きな揉め事にはならずに済んだ。やれやれ……。

われわれが下車したのは、プラカノン駅付近だった。当時はまったく分かっていなかったが、プラカノンはラチャダーやオンヌットなどと並び、娼婦を含むタイ人庶民が多く住む下町地区である。

DSC04052

バンコク東部プラカノン=新羽七助撮影

 

トーシロのアパートは駅から徒歩5分くらいの距離にあり、ワンルームの部屋は非常に質素だった。私のラチャダーの部屋よりもボロい……。

部屋に入ってしばらくは一緒にテレビを見たり、簡単なタイ語を教わったりしていたが、私のムラムラ感は限界に到達。彼女を抱き寄せると、抵抗する素振りを見せなかったので、そのままベッドイン。ナンパ業界で言うところのいわゆる“準即”である。

目標を達成すると、急速に冷めてしまい、彼女のアパートを後にした。金銭の要求はなかった。プラカノン駅からBTSに乗り、本日の行動を振り返ってみる。

準即できたことには満足したが、本物の素人ははたして出会ったばかりの外国人に股を開いたりするのだろうか……。スクンビットの美容室で働きつつも、ナンパ目的でディスコに通っている半素人なのかもしれない。いや、半素人の確率がかなり高いという結論に達した。

ただ、半素人だとしても、プロしか知らない私には貴重な経験になった。

本物の素人中の素人に出会うのはもう少し先の話である――。

センセープ運河

バンコク東部プラカノン=新羽七助撮影

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新羽七助 (しんは・ななすけ)
新羽七助 (しんは・ななすけ)
バンコク居住歴約11年の編集記者。唯一無二のゴーゴーバージャーナリストとして長年活動。
ナナプラザのレインボーグループを中心に、ゴーゴー突入回数は2000回超。パタヤも訪問。東南アジア諸国連合(ASEAN)10か国制覇。アフリカにも進出。
野球はベイスターズファン。

ブログ「新虹日報」      http://shinhananasuke.blog.fc2.com/

Twitter     https://twitter.com/gbanalyst

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