タイレストランで働いていると、たまに初めてタイに行くことになったお客さんが来て、同国に関するアドバイスを求められることがあります。

ある時、前国税庁長官の佐●宣寿氏そっくりの真面目そうな人がカウンターに一人で来ました。おしぼりを渡すやいやな、「あのぉ、お忙しいところ申し訳ありませんが、いくつか質問してもよろしいでしょうか？」と切り出してきました。

「いや、まったく忙しくないんで、なんでも聞いてください」

「あのぉ、実は来週、10歳の息子と２人で初めてタイに行くんですけど、現地でどんな料理を食べたら良いのかとか、どんな場所に行ったら良いのかとか、全然分かんなくて……」

佐●氏によると、南部プーケットに３泊、首都バンコクに２泊滞在するとのこと。いいな～、俺もタイに行きたいな～。

バイトの北部チェンマイ出身ナンちゃんを呼び止め、「お客さん、来週プーケットとバンコクに行くんだって」と振ると、「プーケット？　チェンマイは行かないの？　プーケット暑いよ！」との返事。一方、人殺しのような顔をしたコックのガイさんは「プーケット？　ダメ……」とかぬかします。

タイ人は役立たず……自分で答えるしかありません。

「お客さん、プーケットですよね？　僕も行ったことあるんですけど、（2004年の）津波が発生する前でした。今とはだいぶ変わってると思うんで、正直なところ、よく分からないんですよね。しかも、若いころに行ったんで、変なレストランで毒キノコ食べちゃって、ものすごい幻覚に襲われた思い出しか残ってなくて……」

「バンコクはそうそう、こないだ来たお客さんに聞いたんですけど、中心部にシーロムって場所があって、そこはゲイが集まる地区なんですよ。新宿２丁目をもっとすごくした感じと思ってもらえばいいんですけど。そこにはゲイのショーパブがあって、観客の度肝を抜くスペクタクルなショーが展開されるらしいんです。僕も噂はよく耳にしてて、行ってみたいんです。なんででもそのショーってのがすごくて、店の天井にはウンテイが張り巡らせてあって、両サイドからゲイダンサーがチンパンジーのようにウンテイを使って中央にやってきて、なんとそこで『空中合体』するらしいんですよ」

と、つい興奮してたたみかけるように話してしまいましたが、時既に遅し。お客さんはすっかりドン引きしています。

「ははは……バンコクってそういうところなんですか。10歳の息子と一緒にはちょっと」
まずい……バイトのナンちゃんに「バンコクで息子さんと一緒に楽しめる場所を教えてあげて」と助けを求めると、

「私、バンコクだと迷子になっちゃうから。チェンマイなら分かるよ！」

「だから、チェンマイには行かないの！」

その後、僕がバンコクの屋台情報や交通事情などを教えてあげて、なんとか役に立ったみたいでした……。