【タイの屋台飯と現実と俺が思うことと】 第6回 国民食クイッティアオの全て(3)
米粉麺「クイッティアオ」はいわば人工的にタイの国民食になったが、食に関しては保守的だったタイ人が中国の米粉麺を受け入れることができたのは、タイ独自の味付けに成功したからだ。大きな部分ではやはりスープのバリエーションがタイ的になっていることが、クイッティアオというジャンルをタイ料理の中に根付かせた要因だ。
今回はそんなクイッティアオを味わうためのスープについて見ていく。多くが首都バンコクで食べられる定番だが、いろいろなタイプがあるので、改めてその奥深さを知ることになるだろう。
徹底的にそぎ落とされた調味料セット
まず、クイッティアオの基本は、店主あるいは店員が丼をわれわれのテーブルに置いた時点では「未完成」である。日本のラーメンのように濃厚なスープではなく、主に薄めの味付けがされているので、目の前にきたクイッティアオはまずテーブルの調味料セットで味を調えることが最初の儀式になる。
通い慣れた店ならすぐに調味開始だが、初めての店ではタイ人も一口、味を確かめ、自分好みの味に仕上げていく。
この調味料は究極にまで厳選された組み合わせだ。韓国焼肉だとタレは甘口や辛口があるし、コチュジャンのような辛みのある味噌も数種類ある。日本の刺身も濃い口や味のついた醤油、さらには塩で食べるようになっているではないか。クイッティアオは「これ」と決まったセットになる。
それは「ナンプラー(魚醤)」「酢」「砂糖」「乾燥した粉末の唐辛子」の4点セットだ。店によっては品質の善し悪しや、酢を入れるか入れないか、あるいはすり下ろした唐辛子かどうかなど若干の違いはある。
典型的な調味料セット。中身の良し悪しがあり、屋台は低級品が多い
酢に唐辛子をすりつぶしたものを入れると辛いが、この輪切りの場合、辛さはある程度マイルド
この4種は実に絶妙だ。ナンプラーは塩分だけでなく、魚のうま味成分も加わって香りと味わいに深みが出る。ただ、ナンプラーだけだとしょっぱさが先に立つ。そこで酢や砂糖を入れることで相乗効果を生み出し、味に奥行きが出る。唐辛子も常夏のタイで胃を活性化させるし、砂糖の甘みを引き立たせる。どれも欠けてはならないのだ。それほどに調味料セットは洗練されたものなのである。
トムヤムスープを売りにしている店は、調味料セットに粉砕ピーナッツが加わることもある
基本スープは黄金色のナムサイ系
さて、本題のクイッティアオのスープについてだ。スープのベースが同一でも、具材でジャンルが変わる。このあたりは混乱しやすい。タイ料理研究家が見るとまた違うかもしれないが、俺が自分なりにスープを系列別に分け、そこで「よく」食べる種類に限定して羅列してみた。
クイッティアオで最もベーシックなスープが「ナムサイ」だ。「透明スープ」という意味で、日本のラーメンでいえば塩ラーメンより醤油ラーメンのタレを入れる前のスープだと俺は思う。ほかの系列のスープをつくるにも、まずはとにかくナムサイをつくる。それくらいのベースになるものだ。
●ナムサイ
豚骨あるいは鶏がらを野菜などと一緒に煮込む。ボディーは薄味。
最も典型的なナムサイはこのような具材
そのままでもおいしい店も稀にある。ほぼ全てのクイッティアオ料理のスープストックにもなるので、これが下手な店はおいしくないといってもいい。有名店はスクンビット通りソイ26の「ルンルアン」だ。
タイで一番有名とされるナムサイはスクンビット・ソイ26の「ルンルアン」
●トムヤム
トムヤムスープは大別して2種類ある。一つはスープに「マナオ(ライム)」や粉砕したピーナッツ、「ナムプリック(タイ式辛味みそ)」を入れるタイプ。もう一つは本格トムヤムスープ同様に、コブミカンの葉やレモングラスなどを煮出したもの。多くがナムサイをベースにするが、別系列のスープに前者のものを入れてトムヤムとすることもある。「マーマー」などタイの即席麺はナムプリックを入れてトムヤム味としている。
●ルークチン・プラー
単にナムサイのメイン具材が「ルークチン・プラー(魚のすり身団子)」なだけだが、なぜか一つの種類として確立されている。ルークチンは白身魚、あるいはイカでつくる。
ルークチンはクイッティアオの定番食材。魚だけでなく牛や豚などもある
ルークチンは元々、客家料理なのだとか。タイには潮州経由の説と、客家人の移民がダイレクトにタイに持ち込んだ説がある。白身魚の身をそのまま具材にした「クイッティアオ・プラー」もある。
ルークチンを大量に使った「クイッティアオ・ルークチンプラー」
バンコクのトンブリにあるルークチンプラーで有名な「ナーイギヤップ」
●イェンタフォー
紅腐乳(べにふにゅう、ホンフールー)を混ぜた酸味の強い赤いスープ。紅腐乳は紅麹を豆腐につけて塩水で発酵させた中国の調味料だ。
紅腐乳を使った一般的なイェンタフォー
紅腐乳。ナムサイにこれを入れてイェンタフォーにする店がほとんど
現在は「赤いスープ」であればイェンタフォーとされ、紅腐乳ではなく唐辛子やトマトでつくった調味料を利用する店もある。
ソイ・コンベントにあるトマトでつくったイェンタフォー
トマト系は、ソイ・コンベントの「BNH病院」斜め前の店で味わえる。イェンタフォーには海鮮が合うため、肉類よりはイカや魚を具材に使う。ちなみに名称は客家語の「釀豆腐(ヨンテウフー)」に由来するとされる。
煮込み、薬膳のトゥン系とパロー系
「トゥン」は煮込みのこと。肉を柔らかく煮込んだスープだ。トゥンの中には「パロー」を入れる店もある。「パロー」は福建語が語源とされ、五香粉(シナモンやクローブ、八角など中国の混合香辛料)を中心につくったスパイス。煮込みが弱く、パロー強めのスープもあり、味わいは薬膳的。
トゥンはパロー入りだと店外まで匂いが漂ってくるのですぐに分かる
●ヌアトゥン
「ヌア(牛肉)」を煮込んだスープのこと。柔らかくなった肉や軟骨、内臓が入っている。中華系移民を祖先に持つタイ人が経営している店が多いが、タイでは近年まで牛肉がおいしくなかったため、ヌアトゥンの店は多くない。パローを入れない店、あるいはパロー以外の漢方薬を一緒に煮込む店がある。有名なのはエカマイ通りにある「ワッタナーパーニット」。
「ワッタナーパーニット」は創業50年以上。大鍋で牛肉を煮る様子は圧巻
●ムートゥン
「ムー(豚肉)」の煮込みスープ。トゥン系スープが黒いのは「シーイウダム(黒醤油)」や砂糖が多く入っているからと説明する店が多い通り、甘めに煮込まれている。
トゥン系が黒いのはシーイウダムを使っているからという店が多い
トゥンの定義は「煮込まれていること」で、パローの有無ではない。パローは漢方的な味と香りになるため、どうしても好みが分かれるし、パローなしでも肉は柔らかくなることから、パローを入れない店も多い。
ムートゥンはラマ4世通りの「クイッティアオ・ムートゥン・サームヤーン」がおすすめ。14種類の「サムンプライ(タイの生薬・ハーブ)」で4時間煮込む。近隣の病院が薬膳として勧める。
ムートゥンの「クイッティアオ・ムートゥン・サームヤーン」は創業13年だが、母の味を踏襲したものという
●クイッティアオ・ペット(パロー)
「ペット(アヒル)」を煮込むが、独特の臭みからか基本的にはパローが入っている。ただ、純粋なパロー料理よりは薄めに使う。パローを使うことが多いことから、このクイッティアオだけは中華料理の一部と見るタイ人もいる。有名店はラマ4世通りソイ24出口の斜め向かいあたりの「シア」。
●クイッティアオ・ガイ(トゥン)
「ガイ(鶏肉)」のスープで、パローを入れる入れない以前にほぼトゥンの店ばかり。どの店でも鶏肉を徹底的に煮込んでいて、スープが肉に浸み込み柔らかい。「マラ(ゴーヤ)」も煮込んだ「クイッティアオ・ガイ・マラ」もよく見かける。ガイトゥンなら深夜のスリウォン通り。歓楽街のパッポンとタニヤの間にある「サリカカフェ」の前に夜だけ現れる店。
パッポンで有名なガイトゥンの店。部位を選べるので好きな具材にできるのもいい
船で売られるナムトック系
かつて水路に浮かぶ船で売られていたのが「ナムトック」。「ダムヌンサドゥアク水上市場」などで見られるクイッティアオがこれ。別名を「クイッティアオ・ルア(船のクイッティアオ)」ともいう。
水上マーケットで昔ながらのクイッティアオ・ルアを売っている様子
●ナムトック
大別して牛肉と豚肉があり、最大の特徴はスープに牛か豚の血を混ぜること。砂糖やシーイウダムなどのほかに腐乳や唐辛子も入れ、そのままでも辛味や酸味が強めの濃いスープだ。
クイッティアオ・ルア。分かりにくいが、麺はひと口サイズしか入っていない
船でつくるため、狭いスペースに合わせて器も小さい。それを女性でも器をテーブルに積み重ねるようにしてたくさん食べるから、俺は「わんこクイッティアオ」と呼んだりする。有名な店は戦勝記念塔のロータリー北東にある「パーヤック」。
独特の発展を遂げたその他
タイ全土にはほかにも、独自に発展したタイプがたくさんある。その一部を簡単に紹介する。
●クイッティアオ・スコータイ
北部スコータイ県発祥で、時々バンコクでも見かける。ベースはトムヤムタイプで豚肉やピーナッツなどが入り、味の調整には酢ではなくマナオを絞るのが特徴。
●クイッティアオ・チャーガンラーウ
北部ガムペーンペット県発祥のもの。具材に野菜が多く使われるため、見た目はヘルシー。
●クイッティアオ・ケ
「ケ」は客家系移民のことで、客家人が好んだクイッティアオとされる。豚肉のすり身などを豆腐にくっつけた客家由来の具材「ルークチン・ケ」を使う。
●クイッティアオ・ゲーン
タイ南部で食べられるムスリム料理の一種で、ココナッツ多めのタイ・カレーにクイッティアオを合わせる。
クイッティアオはこのように奥が深い。近年はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の普及もあり、タイ人もいろいろなものを食べるし、おいしい店を求めるようになった。具材にこだわった店、麺を追求する食堂、創作系のレストランなど、さまざまなクイッティアオがある。
今回も非常に長い記事になってしまったが、実際にクイッティアオはそれだけで1冊の本ができるほどだ。ぜひともタイに来てクイッティアオを楽しんでほしいと思う。
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