【タイの屋台飯と現実と俺が思うことと】第33回 外はカリカリ、中モチモチの不思議な食感の伝統菓子「カイタオ」
タイ料理の屋台はいろいろあるが、なんとなく炭火で焼く料理と、中華鍋のようなフライパンで揚げものをしている店が多いような気がする。朝はたとえば中華風の揚げパンである「パートンコー」を見かけるし、タイ式から揚げの「ガイ・トート」もどこにでもあるものだ。
そんな揚げもののひとつに気になる屋台がある。ピンポン球よりもやや小さい、茶色くあげられた球体を大量に並べている屋台がそこかしこに見られる。眺めていると、女性がよく買っているようである。
カイタオ屋台で買いものをする人は大体女性の気がする。
この揚げものの正体は「カイタオ」だ。20バーツくらい払えば袋いっぱいに入れてくれるタイの伝統菓子で、意外とおいしい。今回はそんなタイの揚げ菓子を紹介する。
揚げたてのカイタオ。
正式名があるのに、旧名で呼ばれる伝統菓子
どこにでも見られるこの「カイタオ」は、近年は「カイ・ノックグラター」と呼ばれるようである。どちらでも通じるし、一般的にはカイタオと呼ばれていると思うが、どちらかというと後者の方が今の正式名称のようである。
スーパーの前や路上など、どこにでもカイタオ屋台はある。
カイタオとは「カメの卵」という意味だ。カイタオはスコータイ王朝の時代にはすでに食べられていた伝統菓子だと言われる。スコータイはタイ北部の県で、この王朝は13世紀ごろに成立した、タイ族が治めた初の王朝だ。
それから連綿とカイタオは受け継がれ、ほとんどその姿を変えないまま今に伝わるとされるが、どこかのタイミングでカメがタイの保護種に指定されたために名称がカイ・ノックグラターになったとされる。タイの保護種のリストを見ると、カメはウミガメの一種しかないようなので、カイタオはウミガメの卵を指しているのかもしれない。
ちなみに、ノックグラターはウズラのことだ。だから、新たに誕生した別名はウズラの卵という意味になる。変えるなら卵からかけ離れてくれればよかったのに、よくわからない命名である。しかもカイタオの名称が浸透していて、新名称で呼ぶ人の方が少ない。
カイタオはサツマイモを潰したものを揚げている
カイタオはその見た目のように、外側がカリッと揚げられている。食感もカリカリとしていて、噛んだときの感触が気持ちいい。そして、中身はモチモチとしており、表層とは真逆の感触となる。この落差が非常におもしろくて、癖になる。
カイタオの原材料は、サツマイモ(マン・テート)が中心だ。サツマイモを軽く煮てから潰していく。そこに片栗粉(タイではタピオカの粉が中心になる)、小麦粉、砂糖、ココナッツミルクを適量入れて混ぜ合わせる。これを丸めて揚げたのがカイタオとなる。
揚げている様子を観察すると、押しつぶしながら揚げているように見える。
この菓子は冷めても食べられなくはないが、やはり一番おいしいのは揚げたてだ。屋台では10バーツ20バーツなど買う値段を告げると、店主がその値段に見合った量を袋に入れてくれる。イメージは1個1バーツくらいか。
注文を受けてカイタオを袋に入れる店主。
ビニル袋に紙を敷いただけの場合もあれば、新聞紙などで作った紙袋に入れて渡してくれる。後者だと新聞紙が油を吸ってくれるものの、衛生面が心配ではある。
あくまでも菓子であって主食になるものではなく、タイ人は道ばたで見つけたら適当に立ち寄って買っていく。そんな菓子である。近代化したバンコクでも、13世紀と変わらずに立ち食いしていると思うとなかなか不思議な菓子だ。
カイタオ屋台は選ぶ楽しさがある
カイタオの屋台は揚げものばかりではあるが、これ1種類だけを売っているわけではない。ほかにもいろいろなものを売っているので、選ぶ楽しさもあるのがいい。
カイタオの屋台で見られるのは、紫色のサツマイモを使ったカイタオのほか、揚げたものではなく、同じイモの団子を炭火で焼いたタイプがある。こちらはカリカリ感や中のモチモチした食感はなく、ホクホクした団子といった印象である。
紫のカイタオを揚げているところ。
炭火で焼いたバージョン。
それから、やはりサツマイモを使った別のタイプの団子状の菓子もある。これは「カイ・ホン」というもので、サツマイモやもち米の粉などを混ぜ合わせたものの中に、緑豆で作った餡を入れて揚げたものだ。
カイホンと呼ばれる、カイタオと原材料が似ている団子の菓子。
周囲にゴマをつけたり、砂糖をつけたりなどバリエーションはいくつかある。イモなどで作った生地で餡を包むものの、揚げると空洞ができて、できたてはプシュッと潰れて中から熱い吐息が漏れてくる。
イモやバナナを揚げたものも売っている屋台もある。
あとはサツマイモに衣をつけて揚げただけのものもあれば、バナナを同じように衣をつけて揚げたタイプもある。
イモを揚げるために衣につけている様子。
揚げたイモの衣はある程度はがして売っているようだ。
20年前に初めてタイに来たときが俺の初海外だったが、いろいろカルチャーショックがあった中で、バナナに熱を加えて調理することもまたひとつの驚きだった。
だから俺はいつもカイタオ屋台を見るとそのことを思い出してちょっと甘酸っぱい気持ちになる。まあ、あまりバナナの揚げたものは好きではないので、頼むのはもっぱらカイタオだけだけれども。
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