伏見憲明「百年の憂鬱」さっくりとしたあらすじ

主人公は、作家の榊木義明、47歳。彼は、本業である作家の傍ら、新宿二丁目でバーテンダーのバイトをしながら生活している。
そして、そのバーに、若干20歳のハーフの美青年、ユアンが現れ、義明に一目惚れしてしまう。
二人はすぐに恋愛関係となるが、義明には、20年以上付き合ってきた恋人が台湾にいた。
次第に義明は自身の仕事のアシスタントもユアンに頼むようにもなり、新宿二丁目の創世記に携わった白寿の翁、松川の取材を共にしていくことになる。
義明は、ユアンとの関係を、主導権を握りながら続けていくつもりでいたが、一方のユアンは、彼の駆け引きと、所詮自分は愛人であることに負い目と劣等感を感じ、次第に壊れていってしまう。
果たして、新宿二丁目を舞台に、ユアンと義明は「恋愛」というものに対して一つの回答を出すことになる。

まおにゃんが読む「百年の憂鬱」とセックス

この物語は、感情表現の比喩が多々出て来るのだが、それが美しく透き通る感じがある。そのひとつひとつを、無駄のない文章で多彩に魅せていく。それは作者である伏見憲明氏が持つ、物事に対しての観察眼の鋭さであり、またそれを比喩表現に置き換えた際の卓越した表現力なのだと思う。

義明は、若く美しいユアンに劣等感を抱いている。しかし、ユアンが自分と付き合い、愛人という関係を受け入れたことに関しては優越感がある。そこにあるのは、無意味な感情の足し算引き算、そして駆け引きだ。彼は、それが「大人」なのだと言う。

一方、ユアンの恋愛感情は曇りがなく純粋だ。言い換えれば、むき出しの感情である。
私達の中にも、好きなのにうまくいかない恋愛を経験し、素直な感情だからこそわかってもらいたいこと、だからこそ否定されるととても悲しい感情があると思う。
読者それぞれの中に、義明もユアンもいる。それが物語に感情移入するフックになっていると思う。

義明とユアンのセックスは、逢瀬を重ねるごとに激しいものとなっていく。
その本核は、「感情」でも「駆け引き」でもなく、性欲という「本能」だと思う。
彼らはベッドの中でようやくイーブンになる。本能には駆け引きも足し算引き算も通用しない、ただそれだけのものだからだ。
そして感情の摩擦の激しさは、本能というむき出しの性欲を浮き彫りにさせる。

私も報われない恋愛をした上でのセックスをしたことがあるけれど、肉体的な快楽はあっても、始終気持ちは空っぽで、空虚な感じがしたことを覚えている。その空洞のようなものには、もう無理矢理にでも煮詰まった感情の渦を流し込んで、快楽に転換しなければやっていけなかったような感触があった。それが、「むき出しになった性欲」の正体なのかもしれない。
だからこそ、私はユアンに非常に共感した。作中の彼の気持ちが痛いほど伝わってきた。恋愛に真摯に向き合うからこそ、一番でありたい。自分は本気にしかなれないのだと言っているように見えたのである。
でも、きっと義明も同じなのだ。傷つくのが怖いから、傷ついてきた自分がいたから、彼を通して過去の自分を乗り越えようとしていたのではないかと感じた。そして、それでは誰も幸せになれないことは、彼自身もわかっていたのではないだろうか。

そして、義明はここから重大な決断を迫られることになっていく。それがこの物語のラストだ。

今夜、新宿御苑のバーで

どうでしょうか、「百年の憂鬱」。この本も前回の「共喰い」と同じく長くない本なので読みやすいです。そして私はこの本の流れるような文章がとても好きです。
ちなみに、タイトルの由来は、冒頭のあらすじででてくる松川さんに関連しているのですが、ここでは字数の関係で書けませんでした…その件も読みやすくまとめられていて、興味深い部分です。
心から愛し愛されて平等な恋愛関係には、時間をかけないとなれないのだよなーということにやっと私も行き着きました。不倫とか浮気ってインスタントに激しい恋愛をしているような錯覚に陥りがちですよね。

続きは、酒を片手にカウンターで語らいませうよ。今夜、新宿御苑のバーで待ってます。

【今夜はしろくま♡】
イベント後にさらにまおにゃん猫の日特別イベント開催。チャージはそのまま、1杯目は222円！スペシャルお通しあり〼

スナックしろくま
OPEN 21:00
CLOSE 5:00
東京都新宿区新宿1-31-3 ダイアパレスB1
☎︎03-6274-8648 pic.twitter.com/khBu5e8h9w

— まおにゃん (@MILKROSEXXX) 2017年2月22日