今年で地球が滅亡するってよ

1999年夏。俺、有り金を持って大阪の風俗街を彷徨っていた。ポケットのコイン集めて一つずつ夢を数えてたらレベッカだけど、俺、ポケットの中の諭吉を数えてた。目的は、この有り金を全部、使ってやろうって思ってたから。理由は簡単だ。だって、地球が無くなるんだもの。

ノストラダムスの予言で有名な1999年の終末論を信じてたんだ、俺は。だから、有り金を使ってやるって意気込んでた……ということが半分。本当は大阪に遊びに来て単純に浮かれていただけなんだけどね。

「俺は千葉県生まれＭ性感育ち♪」（俺のテーマソング“グレート・フルチン・デイズ”より）を自認するだけに本場・大阪のＭ性感を楽しもうとミナミの喫茶店で夕刊紙を呼んでいた。当時、今ほどウェブがったワケじゃないし、夕刊紙の三行広告が情報源だったんだ。そこで見つけたのが……。

「今、流行りの3Ｐ
猛女二人が迫る！
不倫イメクラ」

1999年、流行り、猛女二人……このキーワードから俺が導き出した答えは叶姉妹だったんだよ。これはゴージャスな3Ｐだぞって思ったね。地球のファイナルを飾るには相応しいと思い、Ｍ性感はどこかへ飛んでった。と、いうことで電話をすると谷九のマンションを案内された。

俺にだけ恐怖の大王が降臨した!?

受付を済ますと、プレイルームは同じマンション内の「305号室です」とのこと。プレイ内容としては、客が不倫相手の部屋を訪れてイチャイチャしている最中に、客の妻という設定のもう一人の女性が乱入。「そこから3Ｐをお楽しみください！」とのことだった。

部屋の準備が整うまで待合室で待っている間、叶姉妹のどちらを正妻にしようか？　浮気相手にしようか？　そんな妄想をしていた俺。美香さんはシッカリものだから妻にはピッタリだけど、恭子さんのような奔放な女性に弄ばれる夫になるのも悪くないよな～……なんて思ってたんだよ。

ほどなくしてスタッフに声をかけられた。さぁ、これからゴージャスな3Ｐが始まるぞ！　意気込んで305号室へ向かった。チャイムを鳴らすと「どうぞ」と、ぶっきらぼうに答える声が聞こえてきた。

ドアを開けると、そこは普通のワンルームマンションそのもので、やけに生活臭があった。不倫イメクラのプレイルームたる所以だろう。そして、そこには小太りの、正直に言ってしまうとブルドッグみたいなオバちゃんがいた。

「え？　部屋、間違ったか？」とマジで思ったね、俺は。同時に1999年に降臨する恐怖の大王って、これだったのかと確信した。すると、オバちゃんは「あら、若いお兄ちゃんだわ」と不敵な笑みを漏らした。当時の俺は二十代半ばで、オバちゃんは四十代半ばで親戚の叔母って感じだった。

そして地球は残った……後悔も残った！

とにかく戸惑っている俺をオバちゃんが責めてきた。熟練されたテクニックで恥ずかしながら悶えた。目を閉じていればブルドッグ顔も見えないので、このままイケばいいか……なんて思ってた俺は、スッカリとあるコトを忘れていた。

オバちゃんに弄ばれ、ヒーヒー言っているところに“ガチャリ”とドアが開いた。そして、同時に「アンタ、何してんの！」という怒号が響いた。そうだ、不倫イメクラだったんだ、これ。ちなみに声の主もオバちゃんだ。当時、二十代半ばの俺の妻役なのにオバちゃんだ。

妻役オバちゃんの勢いが凄かった。「一体何様のつもりだってぇの!?」と、べらんめぇ口調なんだ、大阪なのに。その後も、「馬鹿言ってんじゃないわよ!」、「笑わせるんじゃないってんだよ!」と罵詈雑言を浴びせていく妻役オバちゃんに対し、不倫相手役オバちゃんはシレッとして不機嫌な表情を浮かべていた。

この構図、なんだか見たことあるぞ……。あ、当時、ワイドショーを賑わせていた、つまり、流行っていた“ミッチー・サッチー騒動”じゃねえか！　そうか、猛女二人って、そのことか……と納得していた俺がいけなかった。

妻役のオバちゃんが「で、結局、どっちが好きなの？」という言葉を合図に熟女二人に濃厚過ぎる洗礼を受けた当時二十代半ばの俺にとって、それはまさに終末だった。だけど、地球は終わらなかったから、今でもプチトラウマとして後悔してるという……。

それ以降、明日、もしもこの世界が終わるのだったら何でも言えるし出来るんだけど、明日、もしもこの世界が終わらなかったら恥ずかしいから無茶しなくなった。だから、2012年のマヤ歴の一件でも動じなかったよ。つまり、この『不倫イメクラ』で大人になった俺である。
（文：亦滑訓仁）