【タイの屋台飯と現実と俺が思うことと】第36回 バンコクでも楽しめるジビエ・タイ料理「アハーン・パー」
2018年11月の日本滞在時に、東京・人形町のジビエ料理を売りにした居酒屋に行ってきた。なんだかんだでジビエを食べたことがないので、試してみたかったのだ。ご存知のようにジビエ料理は野生動物の肉を使った料理で、主にイノシシやシカ、カモやキジなどがそれにあたる。
ところが、量産しているわけでもないし、猟師の成果次第ということもあって入荷できるかの保証がないのがジビエ料理である。結果、俺は日本滞在時にジビエ料理を食べることができなかった。つまり、ただの人形町の居酒屋に行っただけである。
そうなってくるとなおさらジビエ料理を食べたくなる。
12月にタイに戻ってから、ちょうど2019年3月25日に出版された俺の著書(共著だけど)「バンコク 裏の歩き方 2019-2020年度版」の執筆や取材が始まっていたので、その記事用にタイのジビエ料理を探した。
3/27からAmazonでも販売している「バンコク 裏の歩き方 2019-2020年度版」。
すると、意外にもバンコクやバンコク周辺にジビエ料理である「アハーン・パー」が何軒もあることがわかった。
地下鉄駅もあるラートプラオ通りや、サムットプラカン県などにあるのだが、レビューを見ているとやや遠いが、「アードゥアン・ポーチャナー(ドゥアンおじさんのレストラン)」がよさそうであった。
「アードゥアン・ポーチャナー」は遠い……
「アードゥアン・ポーチャナー」はチャチェンサオ県とサムットプラカン県の境にある。
「アードゥアン・ポーチャナー」のシンプルな看板。
オンヌット通りをひたすらまっすぐ、まっすぐ、そしてまっすぐに進むとラーカバン通りに入り、さらにスワナプーム国際空港を過ぎてどんどんまっすぐに行った先にある、小さな食堂だ。どうしても行きたい人はこちらを参照してほしい。
「アードゥアン・ポーチャナー」の裏手は運河なのか池なのか。
この辺りはエビやバラマンディ(スズキの一種)、ナマズなど、いろいろな魚介類の養殖場がある。釣り人に開放する釣り堀として運営するところもあるので、タイ人釣り師が多いエリアだ。
「アードゥアン・ポーチャナー」の裏手にはナマズがいる。
ナマズのエサをもらい、子どもたちはエサあげに夢中。
意外と「アードゥアン・ポーチャナー」には日本人も多い。この周辺や先に日系の工場がある。まっすぐ行けばトヨタの工場もあり、おそらく日系企業の運転手が適当に日本人出張者をねじ込んでいるのだろう。
エアコンはないが、無料Wi-Fiはある「アードゥアン・ポーチャナー」。
とはいえ、「アードゥアン・ポーチャナー」のジビエ料理はメニューのほんの一部でしかない。普通のタイ料理やイサーン料理もあるので、無難な飲食店でもある。
無難と言っても、総合的にはおいしい食堂だと思う。
ソムタムもおいしかったので、「アードゥアン・ポーチャナー」の料理は平均以上の水準。
近隣の養殖場で捕れたというエビを使った「グン・チェーナンプラー」はエビの肉がプリップリでおいしかった。日本語では「エビのタタキ」などと訳され、生のエビをトウガラシと「ナンプラー(魚醤)」のタレで和えた料理だ。
グン・チェーナンプラーのニンニクの漬け物がよかった。
どこにでもある料理だが、エビの鮮度が高かったことと、つけ合わせによくある生のニンニクが、「ガティアム・ドーン」だったことは評価に値する。ガティアム・ドーンはガティアム(ニンニク)の漬け物のことだが、ニンニクの風味を残しつつ甘く、これだけでも十分においしかった。
ジビエ料理はこんなものがあった
ここで食べられるジビエ料理はシカ、イノシシ、スズメ、カエル、ウナギになる。
どれも黒こしょう炒めの「パット・プリックタイ・ダム」とか、辛い調味料というか味噌のようなもの「ナムプリック」の赤に染まった「パット・ペット」、ニンニクと一緒にから揚げにした「トート・ガティアム」などで食べることになる。
今回は残念ながらカエルがなかった。カエルはから揚げにすれば実に美味だ。ちょうど白身魚と鶏肉の中間のようなものである。
シカは特にクセもなく、柔らかくておいしかった。
シカ肉の黒こしょう炒め。
イノシシは豚肉と比較するとやや固いので、それならシカで食べた方がいいかもしれない。スズメも今回は品切れだった。
イノシシのパット・ペット。
問題はウナギだ。タイ語では「プラー・ライ」というのだが、日本のウナギと違い、タウナギとかそういった種類なのかと思う。
しかも、ぶった切っているだけなので骨が多くて食べにくい。今回は「プラー・ライ・パット・ペット」にしたのだが、ナムプリックの辛さでウナギ自体の味は感じなかった。ただただ骨が邪魔でしかない。
ウナギのパット・ペット。
俺自身は「パット・ペット」が好きではない。それならば黒こしょう炒めにすればいいと思うだろうが、ウナギだと生臭そうで。
それで「パット・ペット」を選択したものの、生のこしょうやコブミカンの葉だとか、食べられないものが結構入っているから嫌なのだ。
「トムヤムクン」などのトムヤムスープも出汁を取るための食材が多く、食べられないものなのに皿や器に入ってくる。こんなことがタイ料理は多々あるが、正直、面倒臭くて好きではない。
「アードゥアン・ポーチャナー」は全体的にはおいしい。ジビエならシカがおすすめだ。カエルは今回食べられなかったが、大ぶりのものらしく、から揚げにしたらきっとおいしいだろう。
タイのジビエの衝撃の事実
ジビエ料理はタイ語では「アハーン・パー」という。アハーンは料理とか食べものという意味で、パーは直訳では林とか森という意味になる。要するに「森の料理」という意味だ。
タイ語では動物などの名前のあとにパーがつくと野生という意味合いも持つ。たとえば犬は「マー」であるが、「マー・パー」となれば森の犬、すなわちオオカミということになる。
豚も「ムー」であり、「ムー・パー」と言えば、それはすなわちイノシシを指す。ただ、シカは「グワーン」というが、ほかにシカはないので、グワーン・パーとは言わない。
ここで「アードゥアン・ポーチャナー」の店主に話を聞いたのだが、驚くべき事実が出てきた。
「タイでは本当の野生動物の肉をレストランで出すのは違法なんだ。だから、シカもイノシシも、全部養殖場から来ているんだ」
ジビエじゃない! なんという事実。
確かにタイはちゃんと遵守されているかいないかは別にして、食品衛生法などは案外厳しい。輸入食品などのルールも厳しいので、放射能の影響を恐れているタイ政府は特に日本から精肉を仕入れることに関して検疫を厳しくしているほどだ。
また、レバ刺しなどを提供している飲食店に訊くと、やはり管理などを厳しくチェックされるので、非常に気を遣っているという。
生肉好きの俺は知り合いの店に取材に行くが、本音は行政側に目をつけられる可能性もあって、生肉料理はあまり取り上げてほしくないとも言われたことがある。
野生肉はそういった管理外にあるので、猟師が個人的に食する分には自己責任だが、商業ベースには利用できないようである。実際、山が多い北部に野生動物の料理が多いのだが、食中毒や肉から感染した病気で死亡する例は北部が圧倒的に多い。
というわけで、タイのジビエは実際には本当の野生動物ではなく、単に牛、豚、鶏、一般的な魚介類以外の肉を使った料理、ということだ(ヤギやヒツジはタイではどこに分類されるのかは不明)。
それはそれで安心して食べられるのだが、よくよく考えて見れば、結局俺はいまだにジビエ料理デビューを果たせていないわけで。
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