ヒッチハイク成功も危険な目に

あへんがキマッて寝そべった男たちに別れを告げ、僕らは来た道を戻り始めた。すると、すぐに前から１台の車がやって来た。車を止めてみると３人の男が乗っている。話を聞くと、30キロメートル先にある僕らの目的の村まで行くらしい。値段交渉して一緒に連れて行ってもらえることになった。

まともな公共交通機関がないこのエリアでは、お金を払って車に乗せてもらうのが一般的。車内から積み荷を引っ張り出し、車の屋根に乗せる。僕らはその空いたスペースに押し込まれるように陣取った。

旅友だち（右）とヒッチハイクした車の運転手

やがてあたりは真っ暗になった。灯一つないガタガタの山道を、車のライトを頼りに登っていく。３時間ほど走ったころだろうか。ふと車が止まった。

着いたのかな……。衛星利用測位システム（ＧＰＳ）を確認すると、目的地まではあと３キロほどだった。

「俺らはこっちの方向に行く。村に行くのはあっちの道。送ってほしいなら追加で金を払え」

言葉が分からないので想像だが、おそらくそう言っている。話が違うと抗議したが、まったく聞き入れてくれる様子はない。旅をしているとこういうことはよくある。

真っ暗の山道、狼や熊の出没地帯……。リスクが頭をよぎったが、運転手の対応に腹を立てていた僕らは車を降りることにした。

「きゃっ」

車を降りると、一緒にいた日本人の女の子が声を上げた。

「この人お尻触ってきた」

話を聞くと、車の中でも同乗していた男にずっと足を触られていたらしい。こいつらもうダメだ。

ピンチを切り抜ける！

金を渡して立ち去ろうとした。

「おい待て。足りないぞ！」

僕は約束した金額の８割ほどの金を渡していた。

「ここは約束した村じゃないからな。それで十分だろ」

納得いかない男は大声で叫び始めた。血走ったような鋭い目つきで。文句を言い続ける男たちを尻目に僕らは立ち去った。早足で歩いていく僕らに向かってまだ何か叫んでいる。振り返ると、車に乗り込んだ男たちはこちらに向かってきていた。先ほどやつらが向かうと言っていた方向ではない。

道がガタガタで車も大したスピードは出ないため、すぐには追いつかれなかった。が、それも時間の問題。重い荷物を抱えて小走りで逃げる。これはヤバいかもしれない……。最悪の事態を頭に浮かべ、女友だちの心配をしていた。

するとその時、別の車のライトが近づいてきた。先ほどまで乗っていた車を追い抜いてきたその車を両手を広げて止める。２人の若い男が乗っていた。

「●●村まで行きたいんだけど」

「乗りな」

「お金は？」

「すぐ近くさ。要らないよ」

助かった……。車に乗り込むと、さっきの男たちが追いついてきた。車から降りて来た彼らは、僕らが乗った車を囲んで「こいつらが金を払わない」と運転手に抗議し始めた。

「違う。約束を破ったのはあいつらだ」

英語は少ししか伝わっていないが、何かを感じ取ってくれたのか、怒鳴り続ける男たちを振り切って車を出してくれた。

けっきょくアレが登場

「あいつら最悪だな。相手にしなくていいよ。今日はどこで寝るんだ？」

「これから探すよ」

運転手の男はどこかに電話をかけた。村にはすぐに到着。車を停めると、若者が出迎えてくれた。運転手の友だちらしい。

「おまえらも一緒に来いよ。泊めてくれるってさ」

なんて優しいんだ……。前の車とのやりとりで荒んだ心が洗われる。ありがたくお邪魔させてもらうことにした。運転手の友人の家には彼の両親がいた。すぐにチャイ（お茶）を、そして食事まで用意してくれた。

家の中の様子。右が母親、中央が運転手の友人

すっかり和んだその時。運転手の友人は炭を運んできた。まさか……。父親は棚から黒い塊を取り出した。またあへんかよ……。皆であへんを吸い始め、話題は僕らの所持品に。

「ちょっと携帯電話見せてみろ」

勝手に写真を見始める運転手の男。「この女は誰だ？」「ヤッたのか？」「こっちの女は？」女の写真について、根掘り葉掘り聞いてくる。しかも質問の内容がうっとおしい。

一方、この家の母親は女友だちの服が気になるらしい。

「ねー。このダウンちょーだい。お願い」

服をおねだり。まじめんどくせー。

「おい、おまえらも吸うか？」

「……」

２時間ほど経ったころ、宴はようやく終わった。気だるい身体を無理やり起こして全ての貴重品を寝袋の中に突っ込み、眠りについた。

鮮やかな衣服を身にまとった村の子ども