【タイの屋台飯と現実と俺が思うことと】第8回 灼熱地獄の鍋「タイスキ」、嫌いな人はいない!?
人気のあるタイスキの具材は「エビワンタン」

あまり詳しくない日本人がイメージするタイ料理は「辛い」とか「パクチー」といったところが代表的な印象だろう。実際にはタイ料理で辛くないものは多いし、パクチーも必ず使うわけではない。

逆にタイ人も和食に対して、固定観念的なイメージを持っている。最近はあまり聞かなくなったが、20年前はインスタント麺「マーマー」は和食だとタイ人は言っていた。鍋料理の「タイスキ」も、和食が発祥でタイ式にアレンジされたとタイ人は思っていた。日本人にはピンとこないが、タイ人にはこれが和食なのだと認識されているのだ。

とはいっても、タイスキはタイ人だけでなく、日本人、それから欧米人にも受けがよく、嫌いだという人に出会ったことはない。今回はそんなタイスキに迫ってみたい。

寒いから食べるわけではない

日本人にとって「鍋」は寒い時に食べるものという認識ではないだろうか。常夏のタイではどんなタイミングで鍋を? と思うが、年がら年中、タイ人も外国人も、タイ全土で鍋料理を堪能している。

タイは1年間ずっと暑いわけではない。毎年12月中旬~1月上旬にかけては、首都バンコクでも日中の気温が20度を下回ることがある。北部の山岳地帯なら明け方には0度になることもあるほどだ。

12月の日本から来た人には大した気温ではないかもしれないが、普段30度を超えていることが日常だと体がついていかない。俺も4~5月に日本に行くと、みんな春物、あるいは夏物の服に移行しようとしている中、一人、真冬の服装で過ごす。

水道水がバンコクの冷蔵庫の水よりも冷たくてたまらない。それくらい体感が違うのだ。実際、タイでは気温が15度前後になると、凍死者が出たと報道されるほどで、寒さの感覚が違う。

だからといって、基本は常に暑いためか、食べもので暖を取るという考え方はなく、寒いから鍋物をつつくというわけではないようだ。1年中、タイでは鍋物を食べる姿があちこちで見られる。

タイの鍋料理の代表は二つある。一つは「タイスキ」。もう一つはイサーン(タイ東北部)料理の「チムチュム」だ。スープ系は多数あるが、「煮ながら食べる」点ではこの二つに絞られる。

前者は主にチェーン店で食べる鍋で、後者は屋台ほか、イサーン料理店で楽しむ。不思議とタイスキは電気鍋で食べ、チムチュムは土鍋を使って炭火で温めることが多い。

チムチュムは土鍋で食べるが、位置が高くて食べづらい

チムチュムは土鍋で食べるが、位置が高くて食べづらい

チムチュムはレモングラスや「バイマックルー(コブミカンの葉)」を入れるため、慣れない外国人らに受けるものではない。それでも土鍋と炭火を目の前にして、路上で食べるという行為はなんだかワクワクする。雰囲気も含めておいしいのがチムチュムだ。肉や魚介を生卵で和えて煮る。野菜は基本的に無料という店が多い。

ただ、俺的には1点だけチムチュムに不満がある。屋台などで食べていても「高くない?」と思うのだ。値段は屋台なら100バーツ(約350円)前後からセットが頼めるので高くない。値段ではなく位置だ! 鍋の位置が高いのだ。土鍋は口が小さく深い。そして、炭火の七輪もそこそこ深いので、テーブルに置くと鍋がほぼ目線の高さかそれ以上にくる。鍋の中が見えなくて、食べづらいのだ。

圧倒的人気はMKで間違いない

さてタイスキ。タイに来たことがある人なら人気チェーン店を見かけたことがあるだろう。商業施設によっては2軒以上入居することもあるほどだ。そう「MKスキ」である。最近は日本の店舗数も増えているようなので、東京などで見かけたことがある人もいるかもしれない。

日本国内では「コカ・レストラン」が知られているのではないか。ここはそもそも国外での事業やインスタント麺などの輸出に力を入れているので、バンコクでさえほとんど見かけない。

この2店が一応、タイでは有名なタイスキチェーンになる。ほかにはだいぶ減ったが、バンコクの中華街ヤワラーに「テキサス」がある。また、俺の妻の出身地、イサーンの玄関口であるナコンラチャシマー(コラート)県の市街地には「MDスキ」という謎の店もある。

人気のあるタイスキの具材は「エビワンタン」

人気のあるタイスキの具材は「エビワンタン」

タイスキ店ではどこにでもある緑の麺。茹でずにスープをかけて食べる

タイスキ店ではどこにでもある緑の麺。茹でずにスープをかけて食べる

さらに、意外とファン層が厚い「ルアンペット」というタイスキ店もあって、バンコク中心部ペッブリー通りの本店が有名だが、バンコク東郊サムットプラカン県にも大きな支店があるし、最近は大手デパートの中にも進出し始めている。

サムットプラカン県にある「ルアンペット2」の店内

サムットプラカン県にある「ルアンペット2」の店内

MKスキはその歴史を紐解くと、1962年に創業したタイ料理店がベースになる。「トーンカムおばさん」がカオマンガイ(タイ風鶏肉のせご飯)やパッタイ(炒め系クイッティアオ=米粉麺)などを売っていた、バンコク中心部サイアムスクエアの店がスタートだ。

元々は香港人のマコン・キン・イー氏の中華料理店だった。この人のイニシャルをとって「MK」なのである。

「MKスキ」が中華料理店だったことを垣間見られるメニューが「アヒル焼き」。ほとんどのテーブルで注文される

「MKスキ」が中華料理店だったことを垣間見られるメニューが「アヒル焼き」。ほとんどのテーブルで注文される

マコン・キン・イー氏が62年、タイから米国に移住する際に、トーンカムおばさんが引き継ぎ、86年にタイスキを出したところ、大ヒットした。タイ人がMKとコカを比較する時、タレの味を引き合いに出すことが多い。タイ人にとってタイスキの要はタレにあるようだ。

最近のMKは日本感、それからハイテク感がたまらない。タレにはポン酢があるし、しゃぶしゃぶ用の薄い肉もある。注文はテーブルのタブレットからも可能だ。何より、タイ人は食事の時にビールを飲まないので、冷蔵庫が完全密封の状態になるからか、MKはどこでビールを頼んでもキンキンに冷えているのがありがたい。

MKのしゃぶしゃぶ用牛肉。やや硬いが、嫌いではない味

MKのしゃぶしゃぶ用牛肉。やや硬いが、嫌いではない味

タブレット設置が増えてきているMKだが、口頭注文の方が早かったりする

タブレット設置が増えてきているMKだが、口頭注文の方が早かったりする

MKはデリバリーも行う。タイのアパートはキッチンがないため、多くの世帯が電気鍋を保有する。だから、あとは電話で頼むだけ。スープとタレ、具材を持ってきてくれて、自宅で同じ味が楽しめる。タレは大きなパックで多めに持ってきてくれるので、使い切らない。だから、俺なんかは保管しておいて、日本に行く際に実家への土産として使ったりする。

タイの一般家庭に1台はあるであろう電気鍋。中が鉄板になった電気フライパンもある

タイの一般家庭に1台はあるであろう電気鍋。中が鉄板になった電気フライパンもある

コカが最初にタイスキと呼び出した?

コカ・レストランの創業は1957年になる。最初は中華料理店として20席程度の小さい店だったが、すぐにバンコク中心部スリウォン通りのソイ・タンタワンに移り、800席の大きな店になった。コカが「タイスキ」と呼び出した最初の店だとウェブサイトでは主張している。

このソイ・タンタワンの本店は今も営業中で、日本の団体ツアーもよく使っているので、行ったことがある人も多いだろう。

ちなみにコカは、広報の女性(超絶美人だった!)によれば、タイで初めてエアコンを無料にしたレストランだそうだ。今でも地方やイサーン料理店で見かけるが、エアコンの部屋は別途サービスチャージがかかることがある。昔はそれが当たり前で、コカが初めてVIPルーム以外にもエアコンを設置し、それに対するサービスチャージを要求しなかったのだとか。

コカは今、「マンゴツリー」という高級レストランも展開。特にソイ・タンタワンの本店(コカ本店の隣)は有名だ。

ソイ・タンタワンはコカの存在もそうだし、ゲイ向けのゴーゴーバーもあり、いつも賑やか。かつてお笑い芸人の猿岩石がユーラシア大陸のヒッチハイクでバイトした和食店もここにある。

俺は2000年にタイ語学校に通っていた時、コカ本店の真向かいにある「レッドストーン」というアパートに住んでいた。00年か01年のソンクラーン(4月のタイ正月)には、ハリウッド俳優のマット・ディロンを見かけたことがある。歩いていたら、後ろから英語が聞こえてきたので、「なんかマット・ディロンの声みたいだ」と振り返ったら本人だったという……。ほかにも日本のバンドのJAYWALKなどいろいろな有名人を見た。

タイ人には不人気のコカは、確かにMKのタレに慣れるとちょっとクセがあるのは否めない。しかし、サイドメニューの高級食材――大きなエビ、ホタテなどがあり、これがけっこうおいしいので、予算が許せばコカもけっして悪くない。

「タイスキ」はなぜそう名づけられたのか

ルアンペットは漢字では「金島」と書く。知る人ぞ知るタイスキ有名店で、創業は1968年。有名2店よりずっと遅い。ただ、在住日本人の間では「ルアンペットがタイスキの元祖」と言う人が多い。

「ルアンペット」のタレも「コカ」以上にクセが強い

「ルアンペット」のタレも「コカ」以上にクセが強い

ルアンペットのシーフードセット。大皿なのに具材がスカスカ

ルアンペットのシーフードセット。大皿なのに具材がスカスカ

ルアンペットは今も開業当初からのレシピらしいので、味わいに昔の雰囲気があることは間違いない。その点で「元祖」と思い込まれるのかもしれない。ただ、ルアンペットは公式ウェブサイトがなく、歴史が分からない。

ルアンペットはチムチュムと違い、具材に生卵とオリジナルの味噌を和えて煮る

ルアンペットはチムチュムと違い、具材に生卵とオリジナルの味噌を和えて煮る

MKとコカは歴史が掲載されている。先の情報は各社のサイトを参考にした。まあ、料理の話なので、言ったもの勝ちということはある。だから、誰が最初にタイスキとしたかははっきりとは分からないのが本当のところだ。

では、なぜ鍋料理がタイスキと呼ばれるようになったのだろうか。そもそも和食が発祥だったからなのか。

これは単に最初に言い出した人が「中華料理はありふれているから日本料理にした方がいいのでは?」と考えたのではないかと推測する。MKにしろ、コカにしろ、スタートは中華料理店だ。つまり、タイスキの原型は中国の「火鍋」だったのではないだろうか。

しかし、中華系タイ人の多いバンコクで火鍋で打ち出してもインパクトが薄い。だから、日本の鍋料理「すき焼き」にしよう! となったのではないだろうか。当時は日本料理の情報は少なかったので、わざとそうしたのか、もしくは「しゃぶしゃぶ」と取り違えたか。

俺はどちらかかというと、わざと間違えたのではないかと思っている。「しゃぶしゃぶ」はタイ人には発音しにくい。今はすき焼きとしゃぶしゃぶの違いは知られているが、それでもタイ人は「しゃぶしゃぶ」と呼ばずに「しゃぶ」と言う。だから、頭のいい人があえてすき焼きに目を付けたのではないだろうか。

タイ人経営によるタイ人のためのしゃぶしゃぶ店が今、タイ全土で爆発的に増殖している

タイ人経営によるタイ人のためのしゃぶしゃぶ店が今、タイ全土で爆発的に増殖している

もしコカが最初の名付け親であるとすれば、坂本九の「上を向いて歩こう」が「SUKIYAKI」という名で欧米でヒットしたのが62年ごろなので、オーナーはこの歌から付けた可能性もある。

ゴーゴー嬢とのデートと言えばMKだった

近年だと回転寿司とタイスキを合わせた「シャブシ」なる店も人気だ。俺の家族も大好きで、400バーツ(約1400円)程度で食べ放題だから、安くてありがたい。火鍋のように2種類のスープを選べ、最近はすき焼きスープとして黒い醤油スープが新登場したり、タレもタイスキ用だったものにポン酢も加えられたり、徐々にレベルが上がっている。

「シャブシ」はスープが白(ナムサイ)、黒(すき焼き)、ピンク(イェンタフォー)、トムヤムから選べる

「シャブシ」はスープが白(ナムサイ)、黒(すき焼き)、ピンク(イェンタフォー)、トムヤムから選べる

具材は全て回転寿司のようにベルトコンベアで流れてくる。一方、店名通り寿司もあるが、寿司は流れずにカウンターに取りに行く。子どもたちも喜んで食べてくれる。

「シャブシ」では、具材がベルトコンベアで回る。一人鍋カウンターもある

シャブシでは、具材がベルトコンベアで回る。一人鍋カウンターもある

シャブシでは寿司は回らないので、カウンターに取りに行く

シャブシでは寿司は回らないので、カウンターに取りに行く

俺がゴーゴーバーで遊びほうけていたころ、女の子を誘って食事に行く場合、大体がMKだった。当時の女の子からしたら高額で、しかも和食と思っているので特別扱いされている感があったのかもしれない。

ただ、あのころの女の子はゴーゴーの子でも初回のデートは友人を連れてくるのが普通だった。タイ女性は警戒心が強く、最初に単独でデートには来ないのだ。だから、安いとはいっても普通に高くつく。食べ切れないほど注文するから、友人の存在は本当に迷惑でしかない。

最近は見かけなくなったが、2人だけのカップルが4人席を占領し、並んで座るというのもよくあった。向かい合わせは距離があるから、隣に座ってラブラブ感を出すというのが(当時の)女の子は好きらしい。

端から見てても変な感じだが、俺も一度だけでっぷりと太った女の子とデートすることになって、隣に座らされたことがある。とてつもなく恥ずかしくて、今でもMKに行くと微妙な気持ちになってしまう。

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この記事の作者

高田胤臣
高田胤臣
1977年東京都出身。98年に初訪タイ後、2002年から在住のライター。移住当初は死体へのタッチに執念を燃やしていたが、現在は心霊ライターになるべく、恐怖スポット探しに躍起。タイ語会話と読み書きも一応可。
ウェブサイト:http://nature-neneam.boo.jp/
ツイッター:https://twitter.com/NatureNENEAM
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